『世界は分けてもわからない』

Date:2018年01月17日14時49分 | Category: | Writer:六百田麗子
『世界は分けてもわからない』

答はひとつ


昨年の『ぐらんざ』一月号の本の紹介は、分子生物学者・福岡伸一さんの『動的平衡』だった。
私たちの身体の内部に息づく60兆個もの細胞は、絶えず作っては壊すという自転車操業を続け、それは生命のおわりまで続くという仕組みを知り、いのちの不思議さに息をのむ思いをした。
今月は、その福岡さんの『世界は分けてもわからない』をとりあげた。
私たちの身体をつくる細胞のひとつひとつは、因果のくさりで密接につながり、決して部分に切り離すことができないこと、そしてそのミクロの因果でつながっている全体こそが人間の生命であるという。

「細胞はつくる仕組みよりも、こわす仕組みの方をずっとずっと大切にしている」とすれば、滞ることなく流れている生命を、部分に分けることはできないし、分けたものはすでに生命の輝きを失ったものになる。

 現代、私たちの最大の関心事のひとつは健康であろう。が、生命が部分に分けられないとすれば、病むとは現代の社会構造や人間関係なども含めた存在全体の問題である。
現代人の健康への欲望を福岡さんは、分子生物学の視点から「治すすべのない病」といっているように思う。
生命は分けてもわからないとすれば幸福への答はひとつ。壊す、作るの自転車操業に専念して、いのちをよどませないこと、そのことだと思う。


●『世界は分けてもわからない』
福岡伸一 著
講談社 現代新書
842円

六百田麗子
昭和20年生まれ。
予備校で論文の講師をする傍ら本の情報誌「心のガーデニング」の編集人として活躍中。