『遺言』

Date:2017年12月20日13時01分 | Category: | Writer:六百田麗子
『遺言』

明るくて 楽しい 遺言


 こんな明るくて楽しい遺言があるだろうか。養老孟司さんの最新の本『遺言』は、25年ぶりの完全書きおろし作品だ。今日は年の始めにあたってこの本をとりあげた。

 養老さんといえば、「都市は意識の産物、ヒトの体は自然そのもの、都市化が進めば進むほど、自然であるヒトが息苦しく、暮らしにくくなるのは当り前でしょ」といい、「子供はとくに自然そのものだから、自然を破壊する現代が少子化になって当然」といい続ける虫好きの解剖学者だ。

 書きおろしである『遺言』の、なかでも最初と最後に書かれた「はじめに」「おわりに」という短い文章にとても心を打たれた。「二十九年の夏の終わりに、広島の元宇品の森に行った。子供たちの昆虫採集のお付き合いである。浜でイヌが遊んでいた。紐でつながれていない。しばらくの間、イヌが波と戯れ無心に遊ぶ姿を飽きずに見ていた。

 これが生きているということで、これが幸せということだなあ。それにしては、ヒトの子供のこういう姿をしばらく見ていないなあ」。「子供たちよりイヌのほうが幸せそうだったことは間違いない」。

 ヒトとはなにか、生きるとはどういうことか、幸せとはなにか、養老さんはそのことにさりげなく答えようとしている。「意識の中に住むのはおやめなさい。感覚こそ命です」。


●『遺言』
養老孟司 著
新潮新書 新刊
778円

六百田麗子
昭和20年生まれ。
予備校で論文の講師をする傍ら本の情報誌「心のガーデニング」の編集人として活躍中。