東京通信20 東京のお薦め土産

Date:2017年09月20日13時01分 | Category:東京通信 | Writer:小川祥平


東京のお薦め土産

 東京土産を選ぶのは難しい。空港や駅、デパートにはずらりと商品が並ぶが、数が多く何が良いか分からない。定番ものもいいが、東京○○と銘打ちながら実は都外で製造されていたりもする。かといって珍しいものを選択するのはためらってしまう。八月、福岡に転勤となり、私の東京生活も終わった。最終回となるコラムでは、これまで喜ばれた(と思っている)お土産を紹介したい。

 まずは銀座の繁華街にある「空也」だ。明治十七年創業の老舗の名物もなかはひょうたんのように中央がくびれている。一口かじると、さくっとした皮は香ばしく、餡は上品な甘さで小豆の存在感があふれる。しかも十個(贈答用箱付)で一一三〇円とリーズナブル。当然人気が出るはずで、当日どころか数日先の分まで予約で埋まっている。 一週間前までに予約をしておきたいが、店頭ならまだしも電話はあまりつながらないと聞く。支店もないし、デパートでも売らない。配送もしなければ、個数も限られる。手に入りにくい狷段夢境瓩眇裕い陵由かもしれない。

 梨園や作家にもファンは多い。林芙美子の「匂い菫」に出てくるし、冬季のみ販売している「空也餅」は夏目漱石の「吾輩は猫である」にも登場している。

 次はどら焼きが人気の上野の名店「うさぎや」を取り上げたい。訪問したのは午後三時頃。順番待ちの列があったが、運良くありつけた。四時以降は予約が必須という。 いつもお土産とは別に一個(二〇五円)を買ってその場で食べる。生地は香ばしさを残しながらしっとりとした食感、甘めの餡との相性もいい。賞味期限は二日間(空也もなかは一週間)なので気をつけたい。

 店の由緒書きによると、初代の谷口喜作が大正二年に創業。喜作を襲名した二代目が今のスタイルのどら焼きを発案した。ちなみに初代は博多出身の演劇人、川上音二郎一座で番頭を務め、二代目は俳人で芥川龍之介とも交流があった。さらに二代目の実弟は怪奇文学を翻訳、紹介した平井呈一だ。甘党だった平井は、持参した菓子が気に入らず門下生を破門した逸話も残る。

 弟子の一人、荒俣宏は、平井の著書に寄せた序文で〈「うさぎや」にうかがうと、先生は待っておられ、どらやきをいくつもパクつきながら夜遅くまで飽かずに古ごとをお話しされた〉と述懐している。和菓子の裏側には歴史と物語が転がっている。 老舗ゆえのそのストーリーは色あせない。

 東京生活でほぼ毎日食べていたのはラーメン。やはり最後は麺で締めたい。八丁堀の「麺や七彩」は、化学調味料を使用しない煮干し強めの醤油スープと、注文を受けてから打ち始める手もみ麺が絶品の店だ。ここの持ち帰りラーメンもあなどれない。最近は売り切れの場合が多いが、ネット経由だと常に購入できる。お土産の趣旨から若干外れるがお薦めの一杯である。

 東京通信は今号で終わる。次号からは、趣味である「麺」に関する連載を始めさせて頂く。ラーメンだけでなくうどん、そばも含め、福岡を中心とした麺処の歴史をひもといていきたい。題して『福岡「麺」人生』。引き続きよろしくお願いいたします。


空也のもなか。屋号は初代が関東空也衆だったことにちなむ

文・写真小川祥平
1977年生まれ。7月まで西日本新聞東京支社で文化担当記者として勤務。現在本社文化部。日本酒とラーメンを愛する。