『いっぽ、にほ…』

Date:2017年07月20日13時01分 | Category: | Writer:六百田麗子
『いっぽ、にほ…』

この世を楽しまなくちゃ


 ボストン生まれのさし絵画家・絵本作家・園芸家として知られるターシャ・テューダーの口ぐせは、「この世を楽しまなくちゃ」ということばだった。「この世を楽しむために人は生まれてきたのだから」。

 今月とりあげた本は、シャーロット・ゾロトウぶん・ロジャー・デュボアザンえの絵本『いっぽ、にほ…』。ある春の日の朝、おかあさんとちいさなおんなの子が家の近くを散歩して、咲き始めたクロッカスの花を見つけたり、ちいさな灰色の猫や空とぶ青い鳥を見たり、青い月のようにきらめいている、まるくて白い小石を拾ったり。そして洗濯ものが風に吹かれて踊っている様子や、牛乳屋さんの馬が走っていくのを見て喜んだり、水仙の花の匂いをかいだり。ただそれだけの散歩で、ちいさなおんなの子はすっかり心満たされ、家に帰りつくころには母親に抱かれて眠ってしまう。

 「なんてたのしいおさんぽだったこと。それに、なんてたくさんのものをみてきたことでしょう。ありがとう、かわいい子。おかあさんに、いろいろなものをおしえてくれました」。

 この世を楽しむのは、ほんの少しゆったりした時間、それにまわりの風景と友達になることなんだ。絵本の中のおかあさん、ちいさなおんなの子、それにさし絵を描いたロジャー・デュボアザンに心よりありがとう。
 「この世を楽しまなくちゃ」。



●『いっぽ、にほ…』
ぶん:シャーロット・ゾロトウ
え:ロジャー・デュボアザン
やく:ほしかわなつこ
童話館出版
1,512円

六百田麗子
昭和20年生まれ。
予備校で論文の行使をする傍ら本の情報誌
「心のガーデニング」の編集人として活躍中。