東京通信14 犲鯏圻疥石飲み歩き

Date:2017年03月14日15時21分 | Category:東京通信 | Writer:小川祥平


犲鯏圻疥石飲み歩き

 東京に「呑んべえの聖地」と呼ばれる街がある。葛飾区の「立石」は下町の風情が残る小さな街ながら左党たちが夜な夜な集う。近寄りがたいディープな雰囲気ゆえ、なかなか足が向かなかったが、先日、同業者の知人と連れだって初訪問を果たすことができた。

 最寄り駅の京成電鉄押上線「京成立石駅」は、都営浅草線と接続していて日本橋から乗り換えなしで二十分ほど。ある平日の夕、駅に到着すると、ホームまで串焼きの匂いが漂っていた。匂いの元を辿っていくと、駅前アーケード入口にある「宇ち多(うちだ)」に着いた。昭和二十一年創業の老舗は「飲んできた客はお断り」らしく、最初に寄るのが鉄則という。行列に並ぶこと約十分、ようやく入れた店内は夕方五時台とは思えない賑わいぶりだった。

 隣の人と肩が触れ合うほどぎゅうぎゅうのテーブル席に座り、まずは「煮込み」と「梅割り」(焼酎と梅シロップ)を注文した。柔らかく煮込まれたモツは意外と臭みがない。甘辛さと焼酎との相性も良く、とにかく酒が進む。

 串も頼みたいがメニューには「もつ焼き」とあるだけ。勇気を出して、隣の常連らしき客に食べている串の名前を尋ねると「シロタレヨクヤキだよ」と返された。聞けば、注文は、種類(レバー、ハツ、ガツ、シロなど)、味(塩、タレ、素焼き、味噌)、焼き加減(若焼き、普通、よく焼き)の組み合わせを告げる。確かに呪文のような声が店内には飛び交っている。試しに店員に伝えると意外に通じ、「カシラシオワカヤキ」など調子に乗って色々注文していった。ほかにも酢をかけたり、部位によっては生(ボイル)も頼めたりと、パターンは百種類を超えるらしい。味は勿論、注文方法の楽しさも多くの人を惹きつける理由かもしれない。

 一見ぶっきらぼうの店員も注文を必ず覚えているし、グラスが空いた頃にお代わりを注いでくれる。気付けば梅割りは五杯目。五杯半までというルールがあるらしいので退散。酒も煮込みも串(2本)も全て二百円。二人で三千円だった。

 二軒目は目の前にある立ち食い寿司屋「栄寿司」に行くのが黄金ルート。カウンターだけの店内は満員で、メニューを見ると一貫百十円〜三百三十円と安い。まずは小肌と中トロを注文。さらにタイラギ、赤身、イカなどをつつきつつ、唯一の飲み物であるエビスビールで流し込んだ。すると肉を食べた後の胃も徐々にすっきりし、「さあ三軒目」となる。

 若鶏唐揚げが名物の老舗「鳥房」、パクチーがまぶされた水餃子が絶品だった「蘭州」、最後はその名も「吞んべ横丁」にあるおでん屋…。結局、計五件はしごをしたが財布からは六千円位しか減っていなかったのも驚きだ。
「日本の首都は東京。立石はその東京の犲鯏圻瓩世茵廖D史爾脳鈩△気鵑言っていたのもうなずける。敷居が高そうに感じるが、足を踏み入れてみると居心地が良い。酒好きにはたまらない街だった。


宇ち多の煮込みと梅割り

文・写真 小川祥平
1977年生まれ。西日本新聞東京支社で文化担当記者として勤務。日本酒とラーメンを愛する。