東京通信11 博多うどん 東京襲来

Date:2016年12月20日13時01分 | Category:東京通信 | Writer:小川祥平

博多うどん 東京襲来

 福岡で働いていた頃、二日酔いの日の昼食はいつも倏鄲燭Δ匹鶚瓩坊茲瓩討い拭昆布やいりこなどが効いた優しい「すめ」に、噛む必要がないほど柔らかい麺が疲れた胃を包み込んでくれる。効果も抜群で「今日は飲むまい」と決めていたにもかかわらず、夜には忘れ去って酒場へ、ということが何度もあった。

 東京に転勤になって一番困ったのが、そのうどんが食べられなくなったことだった。関東は蕎麦文化圏。うどんにも蕎麦に合わせるような醤油が強い黒いつゆが注がれている。専門店もあるが、多くが讃岐うどんのようなコシを売りにする。胃に不快を感じながら、ランチ難民として街をさまよい続けたこともあった。

 今年、そんな状況に変化があった。福岡市西区が本店の「大地のうどん」が高田馬場に、薬院で人気のうどん居酒屋「二○加屋長介」が中目黒に出店したのだ。共に正確には博多うどんとは言えないが、醤油が主張する関東のつゆとは違う。そして何より期待を寄せたのは恵比寿にできた「博多うどん酒場イチカバチカ」だ。店は「一風堂」を展開する「力の源ホールディングス」(福岡市)の子会社が経営。同社は、やわやわうどんの老舗「因幡うどん」の事業を承継しているから期待は高まる。

 早速店を訪れてみた。今風な内装の店内には福岡のFM番組が流れており、博多弁が飛び交うという粋な演出。ごぼう天うどんを注文し、すめを一口すすった。コンブ、カツオ、いりこ系の風味がふんわりと漂う。ちょっぴり甘めの味わいも博多を思い出すようでほっとする。柔くて最後にぷにゅっと引きがある麺は、因幡うどんとはちょっと違うが、東京で食べられるのがうれしかった。

 私と同じように東京には博多うどんを求める人は多い。福岡市出身の板花たか子さんもその一人。大学進学で上京して以来、延べ15年以上東京で暮らす板花さんによると、博多うどんを標榜する店は学生時代からあったが、大体が「もどき」で全然はやらなかったという。しかも、讃岐ブーム以降はどの店の麺も硬くなっていくばかり。博多うどん冬の時代が続いてきただけに、今年の出店ラッシュには期待を寄せている。

「東京人の博多うどんへの思いは熱いです」。板花さんは2年前、フェイスブックで「博多うどんを愛する会」というコミュニティーを立ち上げた。メンバーも3千人を越えて手応えも感じている。一方でその多くが福岡出身者でもある。「東京の友人に博多うどんって言っても、『何それ』ってなる」。ラーメンや明太子のようにはなり得ていないのが現状だ。

 東京に進出し、果敢に挑戦する福博のうどん店には勿論頑張ってほしい。ただ同時に、福岡は「支店経済」で県外出身者も多く、人の出入りも激しい。東京での博多うどんの普及、飛躍のためには、彼らの胃袋を癒やし、虜にすることも必要かもしれない。



文・写真小川祥平
1977年生まれ。西日本新聞東京支社で文化担当記者として勤務。日本酒とラーメンを愛する。