博多座二月花形歌舞伎

Date:2016年12月16日12時06分 | Category:コンサート・演劇・イベント | Writer:眸輝樹
博多座二月花形歌舞伎
“男の花道”“雪之丞変化” 余談・雑談



市川猿之助「雪之丞変化」(中村雪之丞役)

 二月の博多座は花形歌舞伎と銘打ってはいるものの実質は「市川猿之助奮闘公演」だ。その演目だが昼は「男の花道」と「艶姿澤 祭」という芝居と舞踊の二本立。夜は芝居「雪之丞変化」の一本のみ。しかし「雪之丞変化」では主役の女方役者中村雪之丞、そして対照的な怪盗闇太郎の二役を得意の早替りでつとめる他劇中劇として数役、また博多座初の客席上を斜めに飛ぶ宙乗りまで見せるという。「男の花道」も女方役者加賀屋歌右衛門が主人公で芝居の見せ場となる劇中劇の「櫓のお七」をはじめ他の人ではやらない猿之助オリジナルで「袖萩祭文」の袖萩まで演じ芝居をより濃いものに仕上げている。

 舞踊の「艶姿澤 祭」というのは今回の博多座公演のために構成されたいわば歌舞伎レビューで、宙乗りのサービスもつけるとのこと。昼夜共に理屈抜きで楽しめるエンターテインメントだ。

 今回の昼夜二本の芝居は共に「ウェルメイド・プレイ」(良く作られた芝居)の見本といえる。若い観客だけでなく今は年配の人でもこの芝居のことを知らない人が多いが、今回だけは開演前にあらすじを読まないで欲しい。起承転結がはっきりした判り易い物語展開なので―。

 そこでこの二本の物語部分にはふれないで古老の語り部気取りでいくつかこぼれ話を雑記してみたい。

 「男の花道」のルーツは昭和の大スター長谷川一夫が戦時中に主演した芸道ものの映画の名作だ。しかし今や「男の花道」は演題としてではなく潔い男の引き際の形容とされることが多く、先頃の広島カープの黒田博樹選手の引退に際してもこの表現を使ったスポーツ紙があった。この芝居のクライマックスは文字通り花道を使った歌右衛門の芝居にあるが、私の想い出にあるのは次の一件だ。それは今から五十年近く前、福岡市民会館で見せた中村扇雀(現坂田藤十郎・以下扇雀で記述)の「男の花道」だ。本花道がなく短い仮設の花道では効果がないと見た扇雀は八百屋お七の扮装のまま舞台から直接客席に下り、そのまま通路を通り乍ら観客(劇中では江戸の芝居小屋に来ている見物)に歌右衛門の芝居をしつつ階段式の客席通路をかけ上って下手へ消えていった。この扇雀のプロ根性とサービス精神に満員の客席は沸きに沸いた。その頃扇雀は「コマ歌舞伎」を大阪の梅田コマ劇場で春秋年二回公演し、長谷川一夫の「東宝歌舞伎」と共に東西の名物公演として人気を博していた。

 その長谷川一夫は「雪之丞変化」を前名の林長二郎以来、三度映画化し、その主演三〇〇本記念作品も市川崑監督によるオールスター映画だった。映画では長谷川をはじめ大川橋蔵、東千代之介等時代劇の人気スターが主演している他あの美空ひばりは雪之丞、その母、闇太郎の三役を演じたが舞台ではやっていない。

 舞台では大衆演劇から歌舞伎までいろいろだが、扇雀はコマ歌舞伎だけでなく歌舞伎座でも上演している。尾上菊五郎も若い頃一度だけやったが後年、宝塚歌劇版の演出もしている。テレビでは数年前、アイドルの滝沢秀明、古くは美輪明宏(丸山明宏・当時)の共に二役があったがやはりこれは舞台のものだ。映像では二役早替りもスリルがない。ところで池畑慎之介(ピーター)は「男の花道」をこの芝居にもってこいの嘉穂劇場でもやったが「雪之丞変化」は手つかずだ。

 さて今回の芝居二本は猿翁も猿之助時代に手がけておらずいわば現猿之助が全く白紙の状態で演じる「猿之助十八番」となるかもしれない。

 初日は節分の二月三日、昼夜三本を大奮闘する猿之助を見て、「こいつぁ春から元気が出るワイ!」といきたいものだ。

『二月花形歌舞伎』
■昼の部:一、男の花道 二、艶姿澤 祭
■夜の部:雪之丞変化
■出演:市川 猿之助 ほか
■日程:2月3日(金)?2月26日(日)
■チケット:A席/14,500円、特B席/11,000円、 B席/9,000円、C席/5,000円
■お問合せ:092・263・5555



眸輝樹
演劇エッセイスト。修猷館高校、早稲田大学第一文学部(演劇専攻)卒、九州朝日放送入社。テレビ・ラジオ等のプロデューサーを歴任。幼時からの観劇歴は七十数年になるという。